人体 神秘の巨大ネットワーク 12021.02.22
ノーベル賞受賞の山中伸弥教授とタモリの司会で2017年秋に始まったNHKスペシャルを書籍化したもの。副題の「巨大ネットワーク」の意味は、従来のイメージは脳が情報センターでその指令で臓器など人体の各部分が動いているというものだったが、実態は骨、脂肪、筋肉なども含む臓器それぞれが、情報を発信しそれを受けた臓器が適切な反応をすることにより、全体として調和のとれた生命活動が営まれているということが、1巻から4巻を通じて明かされていく。
最初の「プロローグ」では、人体はネットワークである」という主題に沿ったいくつかのエピソードが紹介される。エピソード1腎臓が血圧の上昇を抑え、がんの再発、転移を抑える 第1集として「腎臓は人体のネットワークの中で要となる存在」として腎臓がとりあげられる。脳、臓器、骨など各部からの情報により再吸収と排出のバランスを腎臓がコントロールすることで、アミノ酸、ナトリウム、カリウムなど必要な成分の血中濃度が管理される。エピソード2高地トレーニングはなぜ効果があるか 最新の研究成果が分かりやすく説明されていて、精細な図版を見るだけでも一読の価値がある。
エピソード1 血圧が上昇し心臓の負担がおおきくなると、心臓の細胞はメッセージ物質ANPを多量に放出する。これは「疲れた、しんどい」という心臓からのメッセージ。ANPは血流に乗って運ばれ、受け取る臓器の一つが腎臓で、腎臓の細胞の表面にはANPがぴたりとはまりこむ受容体があり、疲れた心臓を助けようと「尿の量を増やす」というリアクションを起こす。これにより血管内の水分が減り血圧が下がり、血液を送るポンプである心臓の負担が下がる。血管もANPのメッセージを受けて、拡がることで心臓を助ける。さらに驚かされるのは、ANPががんの再発・転移を抑えることが分かってきたことだ。国立循環器病研究センターの野尻崇博士は心臓への負担を減らす目的で肺がん手術の際にANPを投与してみたところ、手術後の不整脈を減らすことに成功した。その数年後分かった驚きの結果は再発しない人の割合がANPの投与をした場合91%と、しない場合の67%に比し大幅に増えていたのだ。メカニズムは次のようであると説明される。血管はANPを受け、「血管の内側をきれいにする」というリアクションをする。→手術により漏れ出たがん細胞が血管の傷ついた場所に付着しにくくなる→付着、侵入したがん細胞により転移再発が起こることが防がれる。
エピソード2
水泳選手の高地トレーニングがなぜ効果があるかが解き明かされる。体内に酸素が不足すると、腎臓はEPOという物質を大量に出し始める。これは「酸素がほしい」ということを伝えるメッセージ物質だ。骨がこのメッセージを受け取
って骨髄で赤血球を増産する。これにより酸素が体内にいきわたる。高地トレーニングを行うと2週間ほどで血液中の赤血球は大幅に増え、持久力も上がることになる。